2015年2月4日水曜日

2015年1月の読書

1月はbooklog的には30冊とかなってるけど、大掃除の際に未登録だった本を何冊かまとめて突っ込んでるので、読んでるペースは実質同じくらいのはず。今年もモチベーション維持のために当面は面白かった物をピックアップしていこうかと。

教養

まずは先月の続きでファスト&スロー。著者のノーベル賞に繋がったプロスペクト理論についても登場する下巻。下巻は特に意思決定におけるバイアスの除去について重要な知見を与えてくれます。経営者、実業家、会社の幹部の人たちは当然知っておくべき知識だと思いますが、あまり浸透していないのかな。
逆に広告代理店や弁護士、代議士なんかは、この辺りの知識を巧みに使って商売してるのだから、世の中ちょっと怖いな、と思いました。バイアスを避けるためではなく、意図的にバイアスの罠にハメるような応用しかされていない。ちょっと表現を変えるだけで、一般人の判断を麻痺させる事ができるわけだから、ちょっとした殺戮器官ですよね。
それこそ義務教育で主要科目として教えておかないと、まともな民主主義は機能しないな、と思いました。

二つ目は標準模型の宇宙。これも良書だった。理系大学生レベルなら安心して読める程度に書かれてます。図解知識本よりちょっと本格的に素粒子物理について理解するには良い本。ゲージ理論の概要理解に向けて各章で必要な知識を身につけ、最後に現状での実験物理の限界について書かれて終わる感じ。次の世代の加速器がエネルギー10桁上げないと意味あるデータが取れない、とか言われると、ちょっと今後の劇的な進展は望めないのかなぁ。本の中で2010年までには発見できるはずと言われてたヒッグス粒子も正式な発見は2013年にずれ込んだし。素粒子物理の研究がサチってくるとなるとSFな未来を夢見る者としては寂しいですね。

次は政治経済って事で池上さんの知らないと恥をかく世界の大問題。シリーズになってて、これは1冊目。政権交代直後に書かれた本なので、その辺に対する期待に関しては残念でした、という感じですが。
アメリカ中心の経済の終焉、という前提で今後の世界の動きを読んでいく。宗教の違い、資源の流れ、教育のあり方などに焦点を当てています。
気軽に読めて、わりと面白かったので、続きもボチボチ読んでいこうかと。

で、教養系の最後はプラトンのソクラテスの弁明クリトン。ソクラテスの弁明だけ読むと、ソクラテスって本当に実在したのかなぁ?という印象がありました。ツァラトゥストラのイメージに近い……まぁ、奇人ですね。
内容としては、無神論により若者をたぶらかしているという理由で死刑の裁判にかけられた時の弁明演説の記録、という体裁ですが。実際はプラトンによる創作要素も多分にあるのでしょう。
デルポイの信託で世界一の賢者と言われ、反例を示すために賢者、エンジニア、アーティストを戸別訪問。賢者に対しては、「自分の知らないことがある」事を知っている自分の方が賢いとし、エンジニアに対してはなるほど専門知識では負けるが、それによって全てにおいて賢いと勘違いしている点で愚かだと批判、アーティストは自分の作品について、まわりの批評家の方がよほど作品を理解しているため、信託を伝えるための巫女同然で本人自身には価値がないと見下す。結果、国中の知識人に嫌われ、告発されてこの裁判。見事なとんでもっぷりです。基本、死刑には狼狽えず、裁判でも媚びず、と毅然とした態度で望むわけですが、判決後の「お前らは呪われる」的発言はちょっとした綻びですね。
クリトンはその後の話。死刑執行前夜に脱走を進めるクリトンと、それを断固として受け入れないソクラテス。国家と法についてあれこれ議論して、死刑を受け入れる、と。しかし、当時ソクラテスは70歳と聴くと、そこまでの迫力は感じないかな。そういう意味でも史実なのかもしれないけど。
どちらかというと対話篇としての芸術的な価値というか。力強く迫力のある文体が魅力でした。

娯楽

最初の一冊はこんなにも優しい、世界の終わりかた。たぶんbooklogで作業してたら目について図書館キューに入った本。娯楽小説としては久しぶりのお気に入り。実に見事なタイトルで。現代に生きる人の心を文字通り洗い流すような、素晴らしい話でした。本の主題は冒頭ですぐに出てきますが「限りある生命を強く意識した時、人間は優しくなれる。誰もが平等に死んでいくのに、どうしてみんな虚栄心に蝕まれながら、他人を傷つけて生きていくんだろう」そんな素朴な思いを最後まで貫いて書かれた話。つまらない文章でまとめてしまえば綺麗事のように見えてしまうかもしれませんが、そんな事実をたんたんと、それでいて心に迫るように訴えてくる。悲しい話なのに、読んでいてとても暖かくて優しい気持ちになり、何度も涙を流してしまいました。
(海外出張中に読んだので寂しくなってしまった……)
話の雰囲気としてはファンタシーというかお伽話のような不思議な空気に包まれているのですが、ときおり心理学や進化論にも思いを寄せてしまう、そんな描写が妙に心を現実に引き止めて、単なる物語以上の物として心に焼き付きました。
技術的な面では、構成にも凄く感心してしまって。とくに1章から2章に移る展開は見事だな、と思わず読んでいて震えてしまいました。葉鍵好きにはお勧め。

次の1冊は飛ぶ男……むしろがっかりの1冊なわけですが、敢えて取り上げたいな、と。まだ安部公房が存命していた頃、インタビューなどで執筆中として語られる事も多かった、いわゆる「スプーン曲げの少年」と呼ばれていた作品の遺稿。カンガルーノートより前から書かれてたにも関わらず、結局完成しなかったんですよね。残念。もっともカンガルーノートの完成度の高さを考えれば、あちらが世に出た事の方が結果としては良かったのかも。ともあれ、未完の遺作が出版されている事を知りドキドキしながら手に取りました。
冒頭から文字通り飛ばしてるな!って期待以上の出だしだったんですが、途中から文体も視点も乱れ出して、中盤ではメモ書きの寄せ集めレベルの体裁。これから話が始まるか……ってところで前半終了。
後半は同じアイデアを元にした別テイクにも見えるけど、どうにも文章が稚拙だし、何よりも話の構成が素人くさすぎるので、後から弄られた部分かなぁ。まぁ、ちょっとこれはないな、と。
出版を楽しみに待っていた作品ではあるけど、この状態だったら公開しないほうが良かったのでは、と思ってしまった。あるいは未完なら未完らしく走り書きを集めた資料集くらいの方が価値はあったと思う。まぁ、ファンとしては冒頭だけ読んでも物凄いインスピレーションは受けたわけですが。それでも寸止めどころか、ドタキャンくらいのガッカリ度なので、一言言わずにはいられない……といった所です。

娯楽最後の1冊は天冥の標。日本製のシリーズ物のSF。アンドロイドは電気羊の〜の話を書いた後に同僚から勧められてキューに入りました。ノリとしては日本falcomのRPG(特に英雄伝説系)が好きなら気に入るかも、って感じですね。なので僕も気に入ってます。無理に遠い未来を書かず、宇宙に移民してはいるけれど、諸般の事情で科学技術が停滞して宇宙大航海時代のロストテクノロジーに頼ってる……みたいな設定はアリかな、と思いました。主人公が医者というのも日常と非日常をスムースに繋げて話を展開するのに一役買っていると思いました。同僚から感想聞かれて真面目に答えたら「萌え」回答を期待されてたみたいで……ちょっとキャラの読みがずれたか。個人的には研修のセールスのお姉さんがめちゃくちゃ好みでした。関係無いですが。

芸術

Computer Historyは良くある類のレトロなコンピュータの写真集。安藤さんが紹介してたのを見て、表紙が気に入ったので勢いでジャケ買い的な。

交響曲入門は交響曲の形式についての説明を期待してたんだけど、どちらかと言えば成り立ちについての簡単な歴史的背景。あとは時系列にそって作曲家とエポックメイキングだった交響曲について、個別に評論。楽典はある程度納めてる人向けの本ですね。
とは言え、わりと知らなかった事も多くて。例えば、もともと交響曲はクラシックの本流じゃなかった、というのは意識した事なかった。声楽→協奏曲というのが境界を中心とした本流の流れで。舞曲→オペラ→シンフォニア→交響曲という傍流がベートーヴェンの深刻な取り組みで器楽の集大成という地位を確立。でも、ほとんど同時に完成形になってしまったので、その後も時間で見るとそれほど長い間クラシックの中心にいたわけでもない。
協奏曲の方は、ピアノ協奏曲みたいな単一ソロのイメージが強いけど、声楽からの流れで言う協奏曲は交互にソロを取るリトルネロ形式。Jazzとかわりと協奏曲に近いよなぁ。
ブラームスとブルックナーがほぼ同時期の人ってのも音しか聴いてないと想像もできない事実ですね。期待とは違ったけど面白く読めました。

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