8月に5冊、9月に11冊。9月は育休だったんだけど、料理にハマったりしていて思ったよりは読書に時間を使わなかった。でも、今期は読んで心に残る本の比率が高かったねー。レビュー件数がやたら多いもの。
教養
「国家の品格」を読んで、学生の頃に憧れていた教養人のイメージを思い出した。
きちんとした文化人としても人格を形成せずに、論理だけを振りかざすことがいかに無粋か。自己弁護のための論理、成果主義という名の差別。
日々直面して頭を悩ます矛盾の数々について、頭を冷やして考え直す良い機会になった。成功しているからって正しいとは限らないし、真似して同じ結果が出るわけでもなし。誠実に生きるのが一番かな。
「現代語訳 武士道」は国家の品格の中で触れられていて気になって手にとった一冊。恥ずかしながら、お札にまでなった新渡戸稲造がいったい何をした人なのか、今まで知らなかったのです。
日本人の道徳観を世界に向けて発信した本書は、武士道をキリスト教や西洋の文学、哲学などと比較しながら、決して野蛮なものではなく、欧米の道徳観と比べて勝るとも劣らないものである事を説く。
海外の人と付き合っていると、想像以上に日本への関心が高い事に驚く。経済的な力が衰えてもなお、文化的な側面への興味は尽きない。日本文化に対する尊敬の背景にあるのは過去の偉人の努力の賜物である、と改めて感じた。
開国の時代を生きた人の生の声、切腹を見た外国人による記録など、今を生きる日本人にとっても刺激的な内容が多い。
「図解・標準 哲学史」はしばらく前に哲学が気になった時に図書館キューに突っ込んでいた本の1つ。古代ギリシャはさらったので、もう少し長期に見渡してみようかな、と。著名な哲学者、学派あるいは運動について見開きでざっと説明する感じなので、まったく知らなかった時代に関して記憶に止めるのは困難だった。事前に各論を知っている時代については体系的理解に役立つ。もう一度この手の本を読めば感覚がつかめてくるかな?
しかし、以前は哲学というと物理学が産まれるより前の学問っていう印象が強かったんだけど。これを読むと最先端の宇宙論ですら近世~近代哲学の想像力の域を脱していないというか。わりと最先端科学のルーツになってたりするんだな、と感心した。
科学
「意識をめぐる冒険」は「意識」に関する最新の研究について紹介した本。
ディープラーニングの盛り上がりから機械に人格が生まれるのも時間の問題か、みたいな雰囲気になりつつあるけど。知能と意識の間には、まだまだ大きな隔たりがあるのだと気付かされる。
「動的平衡」は以前読んだ福岡さんの対談本が面白かったので、そのうち読んでみようかな、と思っていた本。「意識をめぐる冒険」と続けて読んだのはタイミング良かったかも。「意識をめぐる冒険」では「人の腸には脳細胞と同じくらい複雑な神経網があるが、果たしてそこには独立した意識が存在し得るのか」みたいな話が出てくるんだけど、「動的平衡」では「ミミズに脳はなく、消化器系の神経網が学習で身につけた反応に従い活動している」という話が出てきて衝撃を受ける。脳と腸の神経網の差異なんて些細なものなのかもしれない。消化器系が進化して意識の所在になってるような知的生命体も在り得るのかも。それこそニコちゃん大王とか。鳥山先生、偉大過ぎるでしょ。
「死ぬまでに学びたい5つの物理学」はちょっとタイトルに偽りあり。この本で学ばせたいのは物理学じゃなくて、偉大な物理学者たちの人生ですね。特殊相対論に関してだけは例外的に前書きに書かれた目的に近く、簡単な数学を用いつつも、きちんと数式で物理を理解しよう、みたいな内容なんですが。それ以外に関しては物理学についての解説書ではなく、パラダイムを変えるような5つの物理学を樹立した物理学者たちの人生・人物像について書いた本でした。端的に言えば、アインシュタインを除き、みんな屈折した人生の中で不幸な最期を迎えている感じなのでアレですが。
「サイコパス・インサイド」はあまりにも日本語訳が酷くて、点数的にはかなり低く付けた本。英語の文法むき出しだったり、直訳だと分かり難い二重否定・三重否定の文が出てきたり、そもそも訳文があからさまにおかしかったり。ちゃんと編集ついてるのかすら疑うレベルでした。加えて原文も時系列で行ったり来たりな感じで。相当に読みづらいです。
ただ、それ以上に内容が興味深いというかズルい。脳のPETスキャンからサイコパスを見分ける特徴を発見した学者(著者)が、別の研究で自分の脳を調べたところサイコパスの特徴を備えていることを知り……という前振りだけで読まずにはいられない。
内容を読むと、本人は自分の正常さを語るつもりで武勇伝エピソードをアレコレ書いてるんだけど、やっぱり本質的に感覚が壊れてて怖いなぁ、と思いました。「車とか何回も盗んだけど、ちゃんとすぐに返したよ、別に悪い事してないでしょ?」みたいなノリ。あと、しれっと書いてあるけどサイコパスの軍事応用研究みたいな話が出てきて、やっぱアメリカ怖いな、と。兵士の脳を操作して社会モードと殺戮モードを切り替えられるようにするとか。確かにちょっと前にペンタゴンで脳神経の軍事応用に関する予算がついた話とかニュースで見た気がする。記憶の操作とか。
最後の節では共感できないなりにも普通の人の感覚を学びながら周囲の人とうまく暮らしていこうとする著者の努力が書かれていて、不活性になっている脳の部位を他の部位で補える可能性も感じたりも。サイコパスって色盲とかと同じくらいの比率で存在するわけで、社会としても何かしらのケアが必要なんだろうな、と思うし。以前読んだ「
プライドが高くて迷惑な人」とかに出てくる例もサイコパスっぽいなぁ、ってのが多々ありましたね。世の自殺やイジメにもわりと影響しているんじゃないかなぁ。
そうそう、脳の補完の話では今期読んだ「
生まれながらのサイボーグ」って本も面白かったです。レビューからは落としちゃったけど。カメラの映像をCPUの足みたいな電極にマップして舌に載せてると、わりと短時間で味覚で空間認識して物を避けたりできるようになるとか。人間の脳ってわりとセンサーに関しては融通が効くっぽい。
お金の話
有名な「イノベーションのジレンマ」。良書だけど冗長だったので、ざっと読んで構造を理解した。高度成長期の日本が知らず知らずのうちに実行してきた事なんだねぇ。以前読んだ韓国企業の成長に関する本の内容を思い出す限り、最近の韓国企業もこれにならって急成長した気がする。
「図解 山崎元のお金に強くなる!」は資産運用について今まであまりにも無頓着だったので少し勉強。外資でストック貰ってると、 株はそのまま放置してても税金だけは現金からがっつり払っていくので。気づくと資産のかなりの比率を自社株が占めるようになっちゃって。怖い怖い……。
娯楽
「天冥の標」は引き続き読んでます。最近「意識」の本とか読んでるのも、わりとこの影響が大きいかも。
「これが最後のワイン入門」は知識をただ体系的に並べただけ入門書とかと比べると、文化的・歴史的背景を順序立てて説明してくれているので頭に残る情報が多かった。
テイスティングシートとか、今後どうやって楽しみを増やしていくかの良い指標になりました。
あと、美味しい飲み方とかは即戦力の情報。結局、読んですぐにワインセラー買ってしまった。